この記事は1年以上前に書かれたもので、内容が古い可能性がありますのでご注意ください。
固定翼の飛行機は、揚力を得たり、舵を利かせるために、その翼に当たる風を必要とします。
この風が得られなくなり、パイロットが機の状態を制御できなくなってしまうのが、いわゆる失速 (ストール) と呼ばれる現象。
このような、コントロールを喪失した状態の発生をいかにして防ぐか、あるいは、そこからどれだけ早く復帰するか、ということは、工学において非常に重要な課題です。
「結局のところ、ストールから抜け出す時間だ」ティーチャは答えた。
散香のようなプッシャ・タイプはプロペラが後ろにある。
一方の翠芽はプロペラが前にあるトラクタ・タイプだ。
プロペラが作った風を、機体で受け止めているトラクタは、メカニズムとしては効率が悪い。
ところが、機体が失速して、頭を下げて落ち始めたときには、速度がある程度まで達しないと舵が利かないけれど、そのとき、トラクタはプロペラが作り出す風を翼の舵に当てることができるから、舵が早く利き始める。
極端な場合、速度がまったくゼロのときだって、プロペラを高速に回して舵を大きく切れば、姿勢を制御できる。
自動車に搭載されているABSもその一例。
フルブレーキをかけても、タイヤをロックせず、ハンドルを切ることで進行方向を制御できる (つまり、舵が利く) ように設計された機構です。
あくまで私の個人的な意見ですが、自動車や飛行機だけでなく、私たち人間の心理・行動の制御についても、この工学の理論を適用することで、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
人生とは、いつも順調・平穏なものではありません。
むしろ、絶え間なく押し寄せてくる問題と困難への対応の連続こそが、その本質であると言っても差し支えないほどです。
そうした厳しい情況を乗り越えていく上で何より重要なことは、自分の精神を安定させ、その行動をコントロールできる状態を保つこと。
パニックに陥ることなく、自分が何をすべきかを考え、そのために必要な手を打つことは、自分だけでなく、周囲の人を守る力にもなります。
では、どのようにすれば自分自身のコントロールを安定させることができるのでしょうか。
私自身、この問いに対する確たる答を持ち合わせてはいないのですが、それができている人たちには、ある共通した性質があると感じています。
それは、「何をしたいか」「どう在りたいか」ということを常に、そして明確に意識しているということ。
明確な目標があるが故に、多少の混乱があっても進むべき方向を見失うことはありません。
例えば、就職活動中の学生を見ていても、希望する業種あるいは企業がはっきりと決まっている人は、求人動向の変化などに左右されることなく、その目標へと近付くための手続きを淡々とこなしていっているように観察されます。
そのような人たちは、最初にあげた飛行機に比喩して言えば、「翼 (心) に当てる風を、自分で作り出すことができる」トラクタ型と言えるかもしれません。
その風を生み出すのは、機体の前方にあるプロペラ – 進むべき方向を指し示す、明確な目的。
彼らは、一時的に失速状態に陥ることはあっても、すぐに自分自身を取り戻して、再び前に向かって歩き出すので、傍から見ていても安心でき、とても頼もしく感じられます。
逆に、プッシャ型の人は、落ち込みからの復帰により長い時間がかかったり、誰かの手助けを必要とする場合が多いため、不安定で頼りない印象を与えてしまうでしょう。
若いうちはともかく、ある程度の年齢になると、こうした人間としての安定性、より一般的には「落ち着き」と呼ばれるものが重要になってくるのだなぁ……、なんてことをひしひしと感じている今日この頃。
自分自身の構造を、瞬発力と機動性を重視したプッシャ型から、モノゴトに対して動じることなくどっしりと構えていられるトラクタ型にシフトするべく悪戦苦闘中の三十路手前の呟きでした。
成田 (曲芸飛行はそろそろキツい?)