COOコラム
【2020年振り返り】新車販売の8割が電気自動車の国も現れた世界のEV市場:中国・欧米企業の本格参入により競争が激化
Junichi Fujinuma
藤沼です。2020年も残り僅か。今年を振り返りつつ、私が注目している電気自動車業界の現状と今後の展望について書いてみます。
ちなみに昨年の振り返り記事はこちら。昨年はEV, 宇宙開発, キャッシュレス, 共通ポイント, 5Gなどについて取り上げています。
2020年、世界はCOVID-19に翻弄された一年でした。東京オリンピックが延期され、私が好きな欧州サッカーやF1(フォーミュラーワン)などのワールドワイドな大会も軒並み延期/中止/縮小されました。
市民生活においては飲食店や宿泊施設を中心に大打撃を受け、これは弊社が拠点を構える会津地域のような観光地も例外ではありません。弊社でもコロナ影響でのお客様の状況を鑑みた結果、延期せざるを得なくなったプロジェクトが僅かながらございます。
乱高下した日経平均/ダウ平均
年初2万3000円台だった日経平均株価は一時1万6500円台に落ち込み、「短期的には大恐慌やリーマン・ショックを上回るほどのショックだった」との見方を内閣府も発表したのは皆様もご存知のとおりです。
その後、感染ペースの(一時的な)スローダウンやワクチン開発に関する報道なども相まって各種経済指標は上昇トレンドを迎え、日経平均もバブル崩壊後の最高値を更新しNYダウ平均も史上初の3万ドルを突破するなど、経済回復に対する期待が見られています。
無論、米大統領選挙による政治安定に対する期待感も大きなファクターであるためCOVID-19だけで一概に語ることはできませんが、そうした状況も踏まえてマーケットは景気回復に対する期待感を抱いているのは事実でしょう。私は株と投資信託を運用していますが、全体的にプラスに転じており一安心しているのが正直なところです。
「巣ごもり需要」で業績を伸ばした業界
企業業績としては「巣ごもり需要」の高まりに伴って食品メーカーやスーパー、運送業を中心に堅調に推移したほか、ニンテンドースイッチを手掛ける任天堂は驚異的とも言える業績を記録し、通期純利益の予想を過去最高値に上方修正したことは記憶に新しいでしょう。実は私も最近スイッチを購入しまして、社長として全国行脚しているところです。(ゲーム「桃太郎電鉄」の話。)
一方で足元の景気は未だに回復したとは言えない状況であり、いわゆる「第3波」と呼ばれる状況次第では今後の先行きも不安が拭いきれない状況ではあります。
「VUCA」そのものとなった2020年
2010年代後半からビジネスの場でも「VUCA時代の到来」という言葉を見聞きする機会が増えましたが、2020年はまさに「VUCA」そのものだったと思います。
このブログは若い学生や新社会人の方もご覧になっていますので補足すると「VUCA」はVolatility(変動性), Uncertainty(不確実性), Complexity(複雑性), Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べた言葉で、もともとはアメリカの軍事用語です。
注目の電気自動車業界
さて、ここから話題を大きく変えて、私が注目している業界について2020年の振り返りと2021年の展望を書いてみます。まずは電気自動車についてです。
なお、EVに関する話を始めると「内燃機関車(ガソリン車)と電気自動車のどちらが優れているか」という議論に発展しがちなのですが、私個人としての見解はあるものの、人によって大きく意見が分かれるところですので、その様な議論を目的とした記事ではないことを断っておきます。
日本の電動化率は1%未満
日本に住んでいると電気自動車が普及している実感は弱く、戸建てにお住まいの一部の方が日産リーフを利用している程度という印象ではないでしょうか。事実、日本の新車販売における「電動化率」は1%にも満たない0.7%ほどと言われております。なお、ここで言う「電動化率」は完全電気自動車(BEV)のほか、「プリウスPHV」や「アウトランダーPHEV」などのプラグインハイブリッド車(PHEV)も含むのが業界の通例となっています。BEVだけの値ではありませんのでご注意ください。
「10台中1台が電気自動車」が当たり前の欧州
その一方で排ガス規制を積極的に推進し2021年からは更に厳しい規制も開始される欧州においては急速な電動化が進んでいます。日本でも馴染み深いメーカーを擁するドイツやフランスを見てみると、新車販売における電動化率がドイツは20%、フランスは15%に達しています。
電動化率80%を誇るノルウェー
欧州の中でも突出して電動化が進んでいるのはノルウェーの80%とスウェーデンの39%です。ノルウェーに関しては新車10台のうち8台が電気自動車であり、かつ過半数(56.1%)が完全電気自動車という訳ですから、今の日本では想像できないような状況であるということです。
実はEV大国である中国
アジアにおいては実は中国が電動化が急速に進んでいる国です。中国では電気自動車(BEV, PHEV)に燃料電池車(FCV)を加えて「新エネ車(NEV)」と呼称しており、世界に流通しているNEVの約半数を中国が保有しているとの報道も出ています。
前述のとおりNEVにはFCVも含まれるため単純に「電動化率」として見ることはできませんが、FCVはEVと比較しても流通量が遥かに小さいため、少なくとも現時点では誤差と捉えらえても大きな問題はありません。なお、2019年度における中国のNEV率は5%程度と言われております。欧州に比べれば低いですが、日本よりも数倍高いのも事実だということが分かります。
時価総額世界1位の自動車メーカーとなりS&P500入りを果たしたテスラ
EVといえばイーロン・マスク氏率いるTeslaについても触れておかねばなりません。同社はModel 3の好調な販売に支えられ、2019年に続き今年も株価が上昇し続けました。7月1日には時価総額でトヨタを抜き世界1位となり、11月16日にはS&P500指数への採用も発表されました。
テスラ株はその後も上昇を続け、いまとなっては時価総額2位のトヨタにフォルクスワーゲン, ダイムラー(ベンツ), BYD, GMの時価総額を全て足してもテスラに届かない状況です。
既に群雄割拠のBEV市場
さて、ここからはBEV(純電気自動車)のメーカーについて書いていきます。BEVと言われて多くの方が思い浮かべるのは冒頭でも挙げた日産リーフやテスラ車(Model S, X, 3)ではないでしょうか?
実はその他にも欧米・中国を中心に既に多くメーカーが参入しています。私が個人的に注目しているスタートアップ企業を中心に、既存メーカーも含めた動向を簡単に纏めてみました。
Lucid Motors (米国)
スタートアップとしてまず挙げられるのが米国のLucid Motorsです。2020年9月に発表された同社初の量産モデルであるLucid Airは高級セダンに類されます。
Lucid Airはグレードによっては約800kmの航続距離(※EPAサイクル)が謳われており、高級セダンBEVであるテスラのModel Sを上回ります。しかしながら、価格面でModel Sを上回ることやLucid MotorsのCEOが「競合はModel Sというよりも(内燃機関車である)メルセデス・ベンツのSクラスだ」とも発言していることから、Model Sと真っ向勝負するような車種ではないと捉えるべきでしょう。このあたりは「EVネイティブ」という方の動画が分かりやすく解説されていますので参考にすることをお勧めします。なお、Lucid Air は北米の顧客を対象に2021年春の納車を目指しています。
Xpeng (中国)
中国はEV大国であると書いたことからも想像できるように、中国国内にも電気自動車スタートアップは数社存在します。
注目企業の1つ目はXpeng(シャオペン、小鵬汽車)です。特筆すべきはその背後にいる出資元で、アリババ(阿里巴巴), シャオミ(小米), テンセント(腾讯)などのチャイナテックの巨大企業や中国国営の投資会社が巨額の出資をしています。
今現在はクロスオーバーのG3やスポーツセダンのP7を扱っています。内装がテスラ車と非常に似ていることや技術窃盗の疑惑などもあることから「パクリ企業」と揶揄する意見があるのが事実ですが、販売が絶好調なのも事実。既にノルウェーを足掛かりに欧州市場への進出も本格的に始めようとしている企業です。
今年の8月にはNYSEへの上場も果たし、EV銘柄として注目の投資対象の一つです。少額ですが私も保有しています。
Nio (中国)
もう一つの中国のEVスタートアップはNio(ニオ,上海蔚来汽車)です。2018年にNYSEに上場し、今年11月に時価総額で一時GMを上回り話題となりました。(やや高騰しすぎている感もありますが…)
最大の特徴はプラグによる充電のほか、テスラも一時期試みていたバッテリーを丸ごと交換するバッテリー・スワップ方式も採用している点です。
世界的なトレンドであるコンパクトSUVのセグメントに位置する「ES6」が注目されており、2021年は同セグメントで中国国内での生産が開始されているテスラの「Model Y」との競争が激化すると見られています。
SAIC-GM-Wuling (中国)
SAIC-GM-Wuling(上汽通用五菱汽車)はXpeng, NioのようなEV専門メーカーではなく、GMが中心となって2002年に立ち上げた合弁事業で低価格帯の車種を扱っています。
同社の「Hong Guang MINI EV」は街乗りに特化した仕様のBEVであり、航続距離(EPA推定)は約80km(上位グレードでも約110km)しか無いものの、約45万円という破壊的とも言える価格が魅力で、独自のポジション築きつつあります。
フォルクスワーゲン (ドイツ)
欧州最大の自動車メーカーグループであるフォルクスワーゲンはグループ全体で2030年までに全モデルを電動化することを表明してしています。
VWブランドにおいては今年の9月からコンパクトハッチバックである「ID.3」の欧州市場への納車が始まっており、2020年10月期ではTesla Model 3や日産リーフ抑えてヨーロッパ市場で最も売れたBEVに輝いています。
また、クロスオーバーセグメントである「ID.4」の納車もまもなく開始される見込みです。その他、クーペの「ID.5」や3列目シートを有する「ID.6」やミニバンの「ID Buzz」の展開も既に計画されています。
このほか、VW傘下であるアウディブランドにおいては「e-tron(イートロン)」の名称で複数の車種を発表しています。なかでもフラグシップスポーツセダンに位置づけられる「e-tron GT」は、BEVにありがちな「いかにも電気自動車っぽい見た目」が苦手な方が好みそうな外観ではないでしょうか。
また高級自動車ブランドであるポルシェは同ブランドとして初のBEVである「Porsche Taycan(タイカン)」の販売を開始しており、売れ行きは好調でTesla Model Sの強力なライバルとなっています。
そのほかの欧米勢
この他、メルセデスやBMWもBEVへの本格参入を始めており、2021年からの排ガス規制への対応と、それを足掛かりにした企業戦略が伺えます。
また米国においてもGMやフォードが電動化への舵を切り始めたところです。米国はテスラがBEV市場において名実ともに圧倒的な地位を築いていますので、その牙城を崩せるのかどうか気になるところです。GMの「ハマーEV」は「Cybertruck(サイバートラック)」と、フォードの「マスタング・マッハE」は「Model Y」とセグメントとしては競合します。
日本メーカーにも期待したい
日本メーカーも徐々にではありますがBEVへの参入を始めています。ホンダは「Honda e」の販売を開始しています。ダッシュボード全面に広がるディスプレイや、デジタルサイドミラーはとても先進的な印象があります。
また日産はクロスオーバーEVとなる「アリア(ARIYA)」を発表。歴代リーフでBEVのノウハウを有する同社が、テスラのModel Yを初めとする強豪ひしめくこのセグメントでどれだけの成績を残せるのか楽しみです。
このほか、レクサスは「UX 300e」を発表しているほか、マツダはSUVの「MX-30」においてBEVモデルをラインナップしています。これらはスペックで見ると個人的にはやや物足りない印象がありますので次のモデルの発表に早くも期待したいところです。
2021年は生き残りをかけた戦いが本格化
電気自動車市場をあまりご存知でない方にとっては既にこれだけ多くのメーカーが参入している状況に驚かれたのではないでしょうか?
前述したように、この記事では「EVが優れているのかどうか」といった話を持ち出すことは避けますが、パラダイムシフトが既に始まっており、特に欧州を中心としたマーケットでは無視できない存在になっているのは事実でしょう。
新たな排ガス規制に伴い、自動車メーカーのみならず部品メーカーにも大きな影響が出ることは確実視されており、場合によっては今後5年〜10年で自動車産業の業界構造が大きく変わることになります。
私が携帯電話キャリアに居た頃はまさにガラケーからスマートフォンへのマイグレーションが急速に進んだ時期だったのですが、そのスピードと影響は凄まじいものでした。かつてひしめき合っていた多数の国内メーカーがスマホへのシフトと共にその後どの様になったのかは皆様もご存知のことでしょう。
無論、携帯電話と自動車では製品ライフサイクルもビジネス構造も業界文化も異なりますが、5年〜10年以内にドラスティックな変化が起こる可能性は高く、各社のEVの納車が本格化する2021年は大きな転換期になることでしょう。